お子様のレッスンは、楽しくそれなりにー、というご意見も多いと思います。
しかし、それで後々本人が後悔したり、深い愉しみに至らなかったら、大変残念なことです。
全員にプロレベルやセミプロの域を目指せとは言いません。でも、せっかく長い時間をお預かりするのであれば、指導者は生徒さんに「いいものがわかる」ハイアマチュアになって欲しいと思うものです。
いいものがわかる、というのは知名度や歴の話にまどわされず、「プロが尊敬するプロの凄み」がわかる、ということです。
それを少し具体化すると、社会人や大学生になったときに、オーケストラや室内楽を「主体的に」楽しめる知識、探求できる基礎を持たせることを一つの目標にしています。
細かいカリキュラムは、生徒さんにより異なりますが、大まかな軸は以下です。
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ヴァイオリンの仕組みを知る。
ヴァイオリンの仕組みをコントロールするための構えと、楽譜から読み取った情報を有機的につなげる。
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これらは自分自身が学び直しをしてきた中で1番大事な部分だと考えています。
とくに構えは、早い段階で全体像を掴まない限り、新しいテクニックの習得の都度やり直しが発生しがちです。
だいたいうまくできない時の原因は構えです。
楽譜の読み方というのは単にドレミやリズムの話ではなく、楽譜にあるさまざまなな情報をサマリして、優先度順に重ねたうえで頭の中で音楽を鳴らすことです。
さらに、一つ一つの音の発音と身体のコントロールを丹念に結びつけ、いかに「楽器と戦わずに」弾くか、という経験値を上げていくことが大切です。
こうしたものを実現するためには、教材に書かれている以前のレベルから、ヴァイオリンを弾くための思考回路を生徒さんたちの頭の中に組み上げる必要があります。
それが、例題的に学んでいく楽曲だと思います。
曲が〜なっているから、〜な技術を〜のステップで〜する。という順でやります。
楽曲分析やソルフェージュ的なものはここに内包されます。
譜読み段階の練習に取り込むことで、
楽器の仕組みをより具体的に頭の中にたたきこんで、無意識にできるところまで持っていきます。
そのため、原曲から移調された、所謂教材曲はあまりとりあげません。
ファーストポジションに一年以上かけるのは、経験上あまり良くないと考えています。
なぜならば、ファーストポジションが
その人にとって正しいファーストポジションかどうかは、
全ポジション、全調との整合性を見ない限りわからないからです。
また、指と音について頭の中で理解が怪しい部分を炙り出すのも大事でしょう。
バッハのコンチェルトや右手の和音が出てこない無伴奏は早めにいくつか取り組みます。
およそ、ヴィヴァルディのイ短調とやることは変わりありません。
どれを例題にして、どれを実践課題にするかの匙加減です。
そのあとの経過点として大事な曲があります。
大体、以下のいずれかを一度課題にします。
早ければ小学生のうちに始めます。
ラロ スペイン交響曲第一楽章
ヴィエニアフスキ スケルツォ・タランテラ
ノヴァチェック 無窮動
ミルシュタイン パガニーニアーナ
ここを丁寧に越えると、ヴァイオリンの全体像が見え始めます。
次のレベルでは和音やアルペジオまで幅を広げるためにこんな曲が出てきます。
バッハの無伴奏(右手の和音あり)
パガニーニのカプリス
初歩から弾く限り欠かせないのはスケールとエチュードですが、
どちらも、表向きやっているだけでは効果の程はわかりません。
エチュードは、最終的に自分自身をメンテナンスするために、
スケールはよりよい指遣いを自分で導けるために必要です。
曲として仕上げることよりも、どう使うか、を学ばないと意味がありません。
かつては、やる中で自分で考えろ!という時代でしたが、
今は幹の部分を説明して、枝葉の例外を適宜補足していかないといけないと思います。
指導者ごとに色々な考えや体験がありますが、七転八倒、3歩進んで2歩下がる、など
一通りの回り道をしてきた結果、こういった方針でお稽古をしてみて、
コンクールや部活動、趣味の活動において生徒さんたちの成果があがっているのをみると、
間違いではないんだろうと思っています。
つぎは、最近直面しているイレギュラーのカリキュラム対応について書いてみたいと思います。