iPadをはじめとしたタブレットを学習のツールとして導入するケースが増えています。私立の中高で「一人1台のタブレットを導入した」というニュースを聞くようになりました。今まで紙ベースだけでやってきた勉強。タブレットを導入することにメリットはあるのかどうか?
今回はこれについてお話しします。
メリット
まずいきなり結論を言いますと、メリットはたくさんあります。
アニメーションが動く、ゲーム要素を採り入れる、視覚・聴覚を刺激できる、など、直感的な空間認識や論理をたどる力を育てる上では、タブレットは紙ではカバーできない部分を補って余りある、強力なツールだと思います。
iPadだけを見ても、いろんな魅力的な教育系アプリがあります。
たとえば、「あそんでまなべる」シリーズのなかの、「あそんでまなべる 日本地図」。
都道府県がパズルのピースになっていて、パズル完成のタイムを競うゲームです。
これには思い出があります。個別指導をしていたときのことです。
ある小学生生徒の夏休み期間の目標の1つが、「都道府県を覚えること」でした。県名の部分を空白にした白地図を何枚もコピーし、いろんな川や山脈、主な産業などを見ていきながら、毎回都道府県名チェックテストをしていきました。
お母様は将来的には中学受験生に、、とお考えだったので、夏休み期間中もかなりの日数を通っていました。しかし彼、モチベーションが低く、なかなか覚えようとしません。10日くらい経過しても、まだ北海道から始めて中部地方くらいの再テストをしている状態でした。
1日に複数コマ来ていたので、お昼ごはんも一緒に食べました。あるお昼休憩のときに、「これやってみる?」と軽い気持ちでやらせてみたところ、面白いほどにハマり、1分くらいで何回もクリアしてしまいました。だんだんタイムも早くなり、しまいには僕のタイムも超えそうになってきました。
次の日も、その次の日も昼休みに20分位ずつやらせてみると、彼はあっさり都道府県を全部覚えてしまいました。
かかった時間は休憩時間を使って、のべ60分くらい。これまで10数万つぎ込んできた授業料は一体何だったのか・・・と愕然とした覚えがあります。(ただもちろん、書けるようになったわけではありませんけどね)
そしてこのアプリ、話はこれで終わりではありません。
当時3歳の僕の息子は、すっかりスマホに興味津々で、いろいろいじるようになりました。ついでにこの「あそんでまなべる 日本地図」もやらせてみると、これまた熱中してどんどんやるわけです。
はじめてやらせてみてから1週間位で、都道府県の形がどのあたりにあるのか、全部覚えてしまいました。
さらに驚くべきことに、都道府県の形をみただけで、「いわてけん」とか「しがけん」とか、8割くらいの県名も言えるようになりました…!
なぜか。これにはこのアプリならではの工夫がありました。パズルがハマるとき、「ピコン!」と気持ちのいい電子音とともに、「○○県」というアナウンスが必ずつくんです。その「ピコン!」を聞きたいがためにパズルをやり続けるわけですが、それと同時に県名を呼ばれるので、その県名までもが頭に刷り込まれてしまったようです。
雲の形を見て、「あれ、いしかわけんににてる」とかいい出すようになりました。3歳でも都道府県覚えちゃうんですよ。これ、紙だけではとても無理だと思いませんか?
他にも、「花まる学習会」関連の「花まるラボ」が作った「Think!Think! シンクシンク」も有名ですね。
立体パズルなどの正解をアニメーションで紹介してくれ、立体図形がイメージできます。
あとは、現時刻の天体の様子が分かる「Star Walk」もとても刺激的です。
関連して、「Solar Walk: ソーラーシステム3D, 惑星, 衛星」なんかは、有料ですが、絶対に買うべきアプリだと思います。
「過去〜現時刻〜未来」の太陽系の配置図が視覚的に分かるだけでなく、惑星の内部構造などもアニメーションで表示されたり、衛星の情報があります。タッチすると惑星の中身がパカーンと割れて、内部のマントルやら氷の層やらの断面が出てくるので面白いです。さらに横道にそれるならば、「プラネット・ナイン」を見ることもできます。「プラネット・ナイン」は発見されていない架空の惑星なのですが、複数の科学者がその存在を提唱しているらしいです。そんなこともこのアプリをいじって初めて知りました。
…とまあ、面白いアプリを挙げたらキリがないのですが、直感的な空間認識や論理を育てる上では、タブレットの有用性は高いと思います。紙では得られない学習効果って、まちがいなくあると思います。
デメリット
ただし、もちろん現時点でのデメリットもあります。「現時点で」と書いたのは、これから改善される余地もあるのかなと思っているわけですが。
その1:「それ、紙でいいじゃん」レベルのアプリも多い
紙だろうがタブレットだろうが、要は「中身次第」です。勉強したいのであれば、教科書、参考書などで質の高い情報が網羅されているものがたくさんあります。書籍に比べれば、タブレットの歴史は極めて浅いので、タブレットだけですべてのことが学べる、なんてことはありません。
アプリだったらそんな面白くないものはそもそも噂にならず、インストールする機会もなくなるのでまだいいです。が、通信教育をやっていて、タブレットを導入している場合は、契約した以上すべてのタブレットのサービスに付き合わざるを得ないこともありますよね。「なんとなく先進的!」と思って始めてみても、解答したらマルがつく、レベルのもので、「それ、紙でやったっていいじゃん」という感想を持たれるケースもあります。
とはいえ最近はタブレットならではの質の高い通信教育も多くなってきています。どんなサービスが評判が良いか?については、次回、レポートしてみようと思います。
その2:タブレットの「透過光」は分析・勉強に向かない
プリントアウトされた紙は「反射光」によって情報が目に入ってきます、その場合、脳は「分析モード」になり、批判的に紙で書かれた情報に目を通すことができます。
一方、パソコンやタブレットなどが発する光は「透過光」であり、それらの文字情報は「くつろぎモード」で認識されると言われています。
よって、紙で印刷されたもののほうが様々なことに気が付きやすいです。自分も模試原稿などを納品する前には、必ずプリンターで印刷してから文字チェックをします。そうすると、なぜだか誤字や文章のおかしい部分に気づきやすいというのは、経験上確かだなと思っています。
だからタブレットの液晶画面だけで勉強するのはどうかなと思います。少なくとも、ノートに書き込むこととセットにした方がいいと思います。
その3:ブルーライトで睡眠不足になり、生活のリズムが崩れる
個人的に一番気をつけなければいけないのはこれだと思います。
スマホの光は、睡眠に最も影響しやすい400~500nmの光(ブルーライト)を含んでいます。この光は交感神経を刺激して脳を覚醒状態にする性質を持っています。朝、一日のはじめにこの光を浴びるのは良いことです。しかし、夜、浴びてしまうと睡眠に入りにくくなり、結果夜更かしのもとになってしまいます。
夕方にタブレットを見る分にはいいと思います。理想としては、「お風呂のあとにはやらない」のがいいと思います。入浴後に起こる体温低下は、睡眠を誘発する効果があります。それによってスムーズに眠ることが容易になります。その効果をなくしてしまうのは、かなりもったいないです。親にとって子供への一番の仕事は、勉強を教えたりやらせたりすることではなく、「健康に成長できる生活リズムを作れる環境づくり」だと、強く思います。
まとめ
後半で3点のデメリットを挙げましたが、これらは、タブレット自体が「発展途上」であることが原因なのかなと思います。将来すべての面で紙を凌駕してしまうような質の高いソフトだらけになるかもしれないし、夜見ても睡眠を阻害しないような、「反射光」に似たような性質を備えたタブレットも普及するかもしれません。しかし、現段階ではこれらは非現実的な未来予想でしかありません。
このように考えると、タブレットを利用するかどうかについては、紙では代替できない面白いアプリ(プログラム)があって、それが教育効果抜群であればどんどん使うべき。しかし、紙と大差ない内容なのであれば、むしろ紙を使ったほうが圧倒的に良い、というのが僕なりの結論です。
次回は、実際にタブレットを活用している通信教育の口コミを比較してみたいと思います。