Un tocco di stile alla tua vita.

Cafetalk Tutor's Column

Rubrica di kuro

「浮遊感のあるコード」とは?〜Burt Bacharach "This Guy's In Love With You"分析

Jun 3, 2017

DTM・作詞作曲講座で、
コードの分析をするレッスンがありました。
その中で非常に興味深いものがあったのでご紹介します。

ちょっと長いです。。

Burt Bacharach(バート・バカラック)作曲の「This Guy's In Love With You」という超名曲の、コード(和音)進行の解釈をしていきました。

この曲です。

101 Strings Orchestra 0:36
(この曲のキーはD#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)

0:36では、F A♭ C E が鳴っているのでFmM7(Fマイナーメジャーセブン)になります。
よってこの部分、
FM7→【FmM7】→Em7
という進行になっています。
この【FmM7】の部分が非常に面白いんです!
この曲にはいろんなバージョンがありますが、これが最も自然なコード進行だと思います。

MIDIのピアノロールで確認してみましょう。

2つ目のコードは、Aの音がG#に半音下がっただけですよね。
3つ目のコードは、すべてが全音か半音下がっています。
とても滑らかに3つの和音がつながりながら変化していることがわかります。

この101 Stringsのバージョンでは、A→A♭→Gの半音進行が重要な役割を果たしていますよね〜。

さて、次を見てみましょう。

Herb Alpert 0:43
(この曲のキーはC#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)

0:40からの3つのコード進行は、この曲では、
FM7→【Fm6】→Em7
という進行になっています。
0:43では、F A♭ C D が鳴っているので、
Fm6(Fマイナーシックス)になります。

6thのDがいい味出していますね〜
でもなぜこの音を加えているんでしょう?

MIDIのピアノロールで確認すると下のようになります。

2つ目のFm6のD音は、3つ目のEm7にも共通していますよね。
この音は3つ目のコードEm7の7度(D音)につながっていくわけです。
つまり、Fm6のD音は、Em7に滑らかにつながっていくための工夫だったのです。
しかし、これで終わりではありません。
他のバージョンを聴いてみると、この曲の深さが見えてきます。

例えば、次のバージョン。

B.J.Thomas 0:41
(この曲のキーはA#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)

このバージョンも、0:41では F A♭ C D が鳴っていてFm6なので、
FM7→【Fm6】→Em7
であることに変わりはないのですが、
Fm6の中でベースがF→B♭と変化しているんですね。
単にちょっとベースが動いて遊んでるだけ、、と考えることもできますが、
もう少しれっきとした理屈がありそうです。

その証拠に、次のDave Kozのバージョンでは、ベース音が完全にB♭になってしまっています!

Dave Koz 0:46
(この曲のキーはC#なのですが、 半音下げてCだと仮定して話を進めます。)

ここでは、B♭ D E C が鳴っているので、
コードはB♭9-5(B♭ナインフラットファイブ)となります。
下のようなコード進行になっています。

FM7→【B♭9-5】→Em7

2つ目のコード、ベース音がB♭になっていて、
浮遊感ただようおしゃれな感じになっていますよね。

でも、この「浮遊感」とは一体何でしょう?

一言で言うなら、
「さまざまな展開を想起させる可能性に満ちた状態」
を作り出しているということではないかと思います。

では、ここではどんな可能性を作り出しているのか?
2つあると思います。

①FM7→【B♭9-5】→Em7
この曲における「正解」、Em7へつながっていく可能性です。
Em7以降はよくあるツーファイブ進行に進んでいきます。

②FM7→【B♭9-5】→CM7
ルート音CのコードであるCM7(Cメジャーセブン)に帰着する可能性です。

まず、このコード進行を聴いて下さい。

FM7→【Bm7♭5】→CM7

これら3つのコードはダイアトニックコード(Cであれば白鍵しか使っていない、ドレミファソラシドだけで構成されたコード群)です。
ドレミファソラシドだけしか使っていないので、とても自然な響きです。
ただ、自然すぎて面白みがないとも言えます。

そこで、Bm7♭5のベース音だけを半音下げてBM7にします。
するとちょっとおしゃれになります。

FM7→【B♭M7】→CM7

さて、Dave Kozのバージョンでは、
B♭M7ではなく、B♭9-5を使っています。
どう違うでしょうか。

B♭9-5とB♭M7の比較

B♭9-5には C E A♭ が鳴っています。
この3音は一体何の役割を果たしているのか?

上記2つの可能性の観点それぞれから見てみましょう。

まず、
①FM7→【B♭9-5】→Em7の場合


構成音一つ一つに注目すると、

・EはFM7のEと共通
・CはFM7のCと共通
・DはEm7のDと共通

と前後のコードの共通の音を抱えながら、

・A→B♭→Bという半音進行
・A→A♭→Gという半音進行

残りの音も半音ずつの滑らかにEm7へと変化していることがわかります。

次に、
②FM7→【B♭9-5】→CM7の場合

・EはFM7とCM7のEと共通
・CはFM7とCM7のCと共通

と前後のコードの共通の音を抱えながら、

・A→B♭→Bという半音進行
・A→A♭→Gという半音進行

残りの音も半音ずつの滑らかにCM7へと変化していることがわかります。

しかし、D音だけは全音進行でCやEへとつながります。
D音はBM7の構成音でもあるので、BM7のようなかたちで
CM7を想起させる役割をもっています。

つまり、すべての音がCM7への進行を想起させることができています。

さらに、D音はEm7の構成音ですから、
Em7行きを匂わせる音でもあるのです。

ということで、僕の結論はこうなります。

B♭9-5は、
Em7への進行と、キーであるCM7への帰着という、
2つの可能性を同時に匂わせる、
不安定な浮遊状態を作り出すコードである


以上が今回の考察です。

曲というのは、読んで字のごとく「音の曲がり方」に個性があります。

主な音(トニックコードやドレミファソラシド)からいかに外れてドキドキするか、
そしてどのタイミングで主な音に着地して安心するか、
という緊張と緩和の芸術なんだなと改めて思います。

まあでも、実際に上記のようなことを考えながら作れるわけではないです。
いろいろ試行錯誤していくうちにたまたま「おっ!?なんかいい響き」と発見して、
あとで理屈を理解するというのが曲作りの実際かなと思います。

今回は趣味で突っ走ってしまった感がありますが、、、
今日はこんなところで。

Got a question? Click to Chat