読書好きの私にとって何度も読み返したい本というのは何冊もありますが、1冊だけ選べと言われて思い浮かぶのは世阿弥の『風姿花伝』です。
今から何百年も前に書かれた本であるにもかかわらず、世阿弥の書いた言葉は今もまったく色褪せずに心に響きます。
本当に良い書物というのは、どんなに時を経ても決して「時代遅れ」にはならないのだなぁとしみじみ思います。
能役者としていくつになっても色褪せない「真の花」を追い求めた世阿弥が、その極意を書き記したのが「花伝書」の愛称でも知られるこの書物。
そこには現代に生きる私たちにも十分に通じるメッセージが溢れています。
例えば、「稽古は強かれ 情識はなかれ」という言葉。
どういう意味かと言うと、「稽古はしっかりとしろ。自分勝手なやり方をするな」ということ。
「情識」というのは、自己流や自分勝手なやり方という意味の言葉です。
良い役者になろうと思えば、稽古はたくさんしなければいけない。
でも、自分勝手なやり方をしていてはいけない。
これって、英語学習にも通じると思いませんか?
上達したいと思えば練習をたくさんすることは必要。
でも、自分勝手なやり方ではいけない。
他にも「上手は下手の手本、下手は上手の手本なり」というような名言も出てきます。
「下手は上手の手本」というのは、自分より下手な人に何か優れた部分が見つかれば、そこからも学ぶべきということ。
自分よりも格下の者からなど学ぶものかというような思いがあるならば、それもまた「情識」のひとつ。
そんな情識は手放してしっかり稽古に励み、上手からも下手からも学べということです。
読んでいて背筋がシャキッとするような言葉の数々。
読み返すたびに新しい気付きがあり、英語学習者として、講師として、そして一人の人として改めて自分を振り返らせてくれる、私にとっての宝物のような本です。