こんにちは!最近は国語のオーダーを受けることが多いkuroです。これまでずっと考えていたことがあって、少し考えが整理されてきた気がしたので、その結果をレポートします。
「ウチの子、読むのが遅いんです・・・。どうすればよいでしょうか?」
と、よく質問を受けます。
この質問、けっこう苦手でした。なぜかというと、僕自身が学生時代、読むのが遅かったからです。
高校時代を振り返っても、「日本で最も時間制限のきつい(©林修先生)」国語のセンター試験には、いつも苦労しました。速く読みたいとは思いつつ、無理に速く読もうとすると話の流れがつかめなくなるので、地道にじっくり読んでいくしかなかったんです。
だから上記の質問には、毎回悩みながら答えていました。
(余談ですが、高校生の頃、「1冊を数秒で読む!」とうたういわゆる「速読術」の本を読んだこともありました。眼球運動のトレーニング(!)をしたりしていました笑。身につきませんでしたがね。)
しかしそういう自分もかれこれ16年くらい、国語という教科にたずさわり、経験を積んでくると、状況は変化しました。
授業では常に生徒より先回りしなければならず、「無理矢理でも速く読まないといけない」シチュエーションの連続です。
そうすると、いつの間にか、読むのが少し速くなっていました。
でも、なんでだろう?ずっと言葉にできなかったのですが、最近やっとわかったような気がします。それは、
「読むのが速い人は、明確な『目的』と『手段』をもって読んでいる」
ということです。この「目的」「手段」とは何か、お話します。
「読む目的」とは
まず「読む目的」についてです。「読むのが速い人は明確な目的がある」というと、次の疑問が出てくるはずです。
「読む前には何が書かれているのかわからないのに、どうして最初から目的が持てるのか?」
もちろん、何事も最初から決めてかかってはいけません。ただ、やはりあらゆる文章に共通する「目的」はあるんです。
国語で出題される文章を類型化すると、以下の3つにだいたい分けられます。
・説明文、評論文
・随筆文
・物語文、小説
さらに、この3つの類型の文章それぞれをとことん抽象化していくと、出題されるコアとなる部分(=つまり、その文章の大事な部分)はこう整理することができます。
・説明文、評論文 → 筆者の言いたいことはなにか?
・随筆文 → 筆者の心情はなにか?(どう変化したのか?)
・物語文、小説 → 登場人物の心情はなにか?(どう変化したのか?)
究極はこれらをつかむことが目的です。良質な出題者は、こうした目的を達成するために、適切な問題を設置してくるわけです。(逆に、その目的を忘れたような受験生に苦労を強いるだけのような問題を悪問と考えています)
長くなってしまうので、今回は評論文だけを例にとります。
例えば、評論文では「筆者の言いたいこと」をつかむのが目的なわけですが、「言いたいこと」って、必ず1つです。100字でも、200字でも、400字でも要約できるけど、一言でまとめることもできます。
たとえば、吉本隆明『悲劇の解読』の一部を読んで、こういう要約ができたとします。
太宰治の作品には、①読者の感受性にすっと染み込んでいく魅力と、②人間存在の深い問いかけとの両方がある。太宰は他者との関わり方がわからない不安があり、③悲劇的な作品を創り上げる資質をもっていた。
この本文を実際に読んでいくと、最初は、
「ふむふむ、筆者は『①太宰の作品には読者の感受性にすっと染み込んでいく魅力がある』ということを言いたいのかな?」
と考えるのですが、読んでいくと、
「いやいや、それよりも②人間存在の深い問いかけがあることの方が重要そうだぞ」
と分かってきます。そして最後まで読めば、
「なるほど、この文章は①②を踏まえて『太宰は③悲劇的な作品を創り上げる資質があった』ということを紹介したい文章なんだな」
と分かるわけです。
こうして読んでいく間、「この筆者はいちばん何を言いたいのか」をとらえるべくアンテナを張りながら、「これか?いや、これじゃない、・・ああ、これだ!」というふうに、「言いたいこと」の核心を正確にチューニングし続けていくのです。
逆に、「何が一番言いたいのか?」という意識がなく、漫然と読んでいると、その答えにたどり着くのが遅くなってしまいます。
時間との勝負をしている受験生は、説明文、随筆文、小説それぞれのこうした「目的」を目指して読んでいく必要があるんです。
「読むための手段」とは
それでは「手段」とはなんでしょうか。これも説明文を例にとりましょう。もう一度確認しておくと、
・説明文、評論文 → 筆者の言いたいことはなにか?
が目的でしたね。じゃあ、それはどこに書いてあるのか?効率よく見つけるために、説明文、評論文を大きく2つに分けます。
・「抽象」の部分 → 筆者の言いたいことが書かれている
・「具体」の部分 → 筆者の言いたいことを根拠づけている
「この段落は前の段落の『抽象』を例示した『具体』なのか?」
「それとも新たな『抽象』部分なのか?」
と、具体と抽象にグループ分けしていくのです。
そうしてグループ分けした後、「抽象」の内容をつなげていけば、その評論文の骨子が見えてくるはずです。
具体的には、「1回目の読み」は、次のような作業をすると全体像が速くつかめます。
・作業1:「全体のテーマ・流れ」をつかむ
・作業2:説明文であれば「具体」「まとめ」のグループ分けをする。
筆者の言いたいことに線を引く。
物語文であれば「場面」のグループ分けをする。
重要な心理描写に線を引く。
・注意:あまり細かいことにこだわらない。さっさとやる!
こういう「作業」をしていくことで、「目的」である「筆者の言いたいこと」に早くたどり着くことができるのです。そして、このような「作業」を通じて「言いたいこと」をつかもうと常に正確に文章に食らいついていけば、その過程で出される出題者からのお導きとしての設問も正しく打ち返し続けられる、というイメージです。
さらに、レベルは変わりますが、「各設問に答える」という精読のレベルでも、「目的」と「手段」があることって大事です。
選択問題を例に取ります。選択問題に正解するのが「目的」だとして、その「手段」は、各選択肢の正しい箇所、間違っている箇所を判別していくことです。その判別の際に、選択肢のそれぞれの語句に対応する部分を本文から探します。
先日やった問題を例にとります。選択肢に算用数字で「地球全体のエネルギーの10〜20%」とあったので、「ほんとかな?」と思って本文に立ち戻って探します。その時に「算用数字の10とか20とか書いてあるところはあるかな・・・あ、あった。でも、ここって、傍線部とは全然関係ないところから持ってきた言葉だな。バツ!」というふうに吟味していきます。
こういうふうに、特定の言葉に絞って探すと、早く見つかるものです。
このように精読の部分でも、正解を選ぶための確かな「手段」を持って本文を読めば、正解(目的)を早く見つけることができるのです。
・・・最後にまとめます。
「読むのが速い人は、明確な『目的』と『手段』をもって読んでいる」。
これが現時点での、「読むスピードを上げたい」と悩んでいる人への最先端(僕の中でですよ)の回答かなと思います。
すぐにはスピードは上がりません。かといって、頭がよくなる必要もありません。
大事なのはただ、適切な語彙力を手に入れて、適切な「目的」と「手段」をもって読む練習を続けていくことなのです。
きっとそうだと思います!