朝の挨拶1
前回の記事で紹介したブラックバードですが、英国人に大切にされているせいか、いたるところで見かけます。
私は渡英したばかりのころ、1人で下宿暮らしをしていました。音姫(妻)は出産間近のため、日本に置いてきました。
最初のうちは、下宿から大学まで歩いて出勤していましたが、そのときこの鳥が、ある道沿いの民家の板塀の、同じ場所に、いつも止まっているのに出会いました。
同じ鳥が習慣的に、いつもこの場所に止まっているのか、それともこの場所が何らかの理由で多くの鳥に好まれているのか・・・
たぶん前者だと思いますが、確信はありません。
いずれにしろ、止まっている鳥は、私が近づいても決して逃げませんでした。
互に見える距離になると、(日本ならここで飛び去るところですが)こちらに目を向けて、じっと見ています(ヒューマン・ウォッチングをしているのでしょうか)。
そこで、こちらもじっと見つめます。それでも彼(彼女?)は逃げません。
このような時のブラックバードの姿には、まことに人間臭いものがありました。
羽をすぼめて止まっていると、まるで黒いオーバーコートのポケットに手を突っ込んで、やや寒そうに立っている感じです・・・
ついに距離は、手を伸ばせば届くほどになりました。
それでも互いに目をそらさず、じっと見つめ合います。
手を差し出せば、手のひらに降りて来るのでは?
と思いましたが・・・
私は何もせず、そのまま通り過ぎ、遠ざかりました。
ブラックバードの人気の理由は、こんなところかもしれません。
朝の挨拶2
間もなく、私は自転車で通勤するようになりました。
キャンパスの裏口から入り、広い芝生を突っ切ります。皆が同じルートを使うので、芝生には幅20cm程の轍の自転車道が出来上がっていました。そこを走らないとなかなか走りづらいので、誰もがそこを通ります。
ある朝のことです。
その細い自転車道の中央に、鳥が一羽、道に直角な方向を向いて静止し、瞑想にふけっていました。
これはブラックバードではなく、もう少し大きい、濃いグリーンの鳥だったと思いますが、人間を怖れない点では似ています。
ある程度のスピードで近づいて行けば、逃げるだろう・・・
と予想していましたが、鳥は真横を向いたまま、自転車には目もくれず、逃げる気配がありません。
私は好奇心に駆られ、ぎりぎりになった時に、彼がどのような行動をとるのか知りたくなりました。
そこで、減速せずに、そのまま走行を続けました。
ついに互いの距離が・・・1mを切り・・・これは本当に轢いてしまう・・・
と思った刹那です。
鳥はようやく私の方にちらと目を遣り・・・面倒臭そうに
ツン、ツンと2歩・・・前に進んで、道を空けました。
そして後ろを通りすぎる私には目もくれず、
微動だにせず、
自分の瞑想を続けました。