前回までの虫シリーズに続いて、虫の predator である鳥の話をしましょう。
人を怖れない英国の鳥
英国を初めて訪れた日本人が必ず驚くことの一つは、鳥が、人を殆ど怖れないことです。日本人の集まりに新顔メンバーが加わると、一度はこの話になります。
日本の鳥がすぐ逃げるのは、日本では人がやたらに鳥を追い廻して、警戒心を抱かせてしまったから、と考える人が多いのですが・・・果たしてどうでしょうか。
英国人は、確かに鳥を大切にします。そして鳥の数は、日本よりかなり多いように思えます。
バードウォッチングを趣味にする人は非常に多く、私が招待された際にも、自宅の庭に小鳥が舞い降りると、ホストが客へのもてなしもそこそこに、すかさずカメラや双眼鏡を手にして、飛び立つまで熱心に見入る、ということが何度かありました。
その瞬間のために、カメラや双眼鏡は常に窓辺近くに置いているのです。
庭木には巣箱を用意し、ツバメが軒下に巣を作れば歓迎して、ヒナが巣立つまで見守ります。
近づいて追い回したり、ましてや捕獲して食料にする人は、少なくとも私の知る範囲では(近所の子供たちも含めて)いませんでした。
ブラックバード
誰もが「かわいい」と称賛する代表的な鳥は、ブラックバードです。
私が勤めていた大学に、鳥類に詳しい日本人の生態学研究者が、環境系学科に長期滞在していましたが、彼によるとブラックバードはツグミの一種だそうです。
しかし、見かけはあまりにもツグミと違いました。名前のとおり、カラスを小さくしたような真っ黒な鳥で、ハトより少し小柄・・・「鳩胸」ではなく、スリムな印象です。
なぜ、このような何の変哲もない鳥を、彼らが絶賛するのか?
人々は色の綺麗な鳥に、あまり関心がなかったようにも思えました。
実際に英国人は、黒が好きなのかもしれません。
ピアノの無い生活を余儀なくされていた音姫(妻)に、何とかピアノを買ってやりたいと、ロンドンのピアノショップを下見した時のことですが・・・
訪れたショップには、普通の黒塗りのピアノに並んで、1台だけ木目調の日本製グランドピアノが置いてありました。
ややワインカラーが入った、半透明ブラウンの美しい仕上がりです。残念ながら、薄給の私には、とても手が出ない値段でした(当時円は非常に強い通貨でした!)
それは兎も角として、私が驚いたのは、この美しい木目調が、日本製の同じ機種の黒塗りより、日本円にして20万円ほど価格が低かったことです。
木目を出す塗装は高度な職人技で、外周の板も、節などが入らない、見た目の良い部位を使います。一般には(少なくとも日本では)、黒塗りよりかなり値段が高いはずです。
店主に理由を聞くと、彼は驚いたような顔をしてこう言いました。
「え?・・・当然じゃないですか? 誰でも黒を欲しがりますよ」
「見てごらんなさい、黒は美しいでしょう?」
「圧倒的に、こっちの方がインテリア性が優れているでしょう?」
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ちなみに、実際に彼女にピアノを買ってやれたのは、その2年後になりました。大学には音楽教育の学科があり、彼女はそれまで、練習室のボロピアノで我慢していました。
余談
母国を離れて暮らす異邦人の間には、国が異なっても連帯意識が生まれるようです。
よそ者だけで集まると愚痴話のオンパレードになりがちで、それが連帯を強めているのかもしれません(日本で暮らしている外国の人々も、恐らくそうなのでしょう)。
愚痴話ではありませんが、日本人の集まりにスペイン人集団が合流して親睦パーティーを催した時、日本の人々が彼らに、ヨーロッパ大陸では鳥がどの程度人を怖れるのか、聞いてみたことがありました。
すると彼らの答えは・・・口を揃えて「スペインの人々は鳥を見つけると、すぐ捕まえて食べてしまうので、そもそも鳥を滅多に見かけない」ということでした。