源氏物語における装束の重要性を夕顔の巻を例に見てゆきたい。
葵の上や六条の女性など身分の高い女性に打ち解けがたい堅苦しさを感じていた源氏は、歌を交わした夕顔の花咲く屋敷の女性に興味を持つ。やがて、惟光の手引きでお互いの身分を隠したままの交渉を持つようになる。
その時の源氏の装束は、「やつれたる狩りの御衣(おんぞ)」とある。狩衣は狩猟用であり、直衣(のうし)よりも一段と略装である。それも、着古したものである。この装束で源氏は自らの身分を隠した。
一方、出自の定かでない夕顔の方はというと「白き袷(あはせ)、薄色のなよよかなるを重ねて」という装束である。白いあわせにうすむらさきの柔らかな表着(うわぎ)を重ねて清楚で目立たないいでたちである。これは人となりを表すかもしれないが、身分は定かでない。これは季節が夏で軽装であることにもよるだろう。
この恋は、夕顔の突然の死によって終わるが、お互い正装していたら成り立たなかったかもしれない。この時代は身分ごとに装束は事細かに決められており、逆に、装束から身分を推し量ることができた。身分違いの交渉ははばかられたことだろう。
このように源氏物語では装束が重要な要素となっている。