今昔物語集におならの話がある。
秦武員(はだのたけかず)という舎人(とねり)がいた。
ある時、武員は禅林寺の御壇所にうかがった。御壇所というのは、宮中の真言院で、密教を授けるために壇が築いてあるところである。
僧正は武員を御壇所の中庭に招き入れ、話し相手になさっていた。武員は庭先に長いことうずくまっている
うち、誤ってえらく大きなおならを放ってしまった。
そこにいたものは、あっけにとられて顔を見合わせるばかりだった。
その時、武員は左右の手を広げて顔を覆い、「あはれ、死ばや。」(ああ、死にたい。)といった。そこで、一同どっと笑い転げた。
「おならをしたら、すぐに笑ってやれよ。」というのが、語り手の意見でした。