母が「教育ママ」という名のラスボスだったせいで、
我が家のゲーム環境はファミコン1台のみ。
「時代に取り残される」という状態異常を喰らい、
ポケモンやたまごっちが流行している中、
僕はそれらに触れることすら叶わなかった。
なんなら、みんなが飽きた頃にようやくプレイし始めるというスロースターターだ。
初代ゲームボーイを手に入れるまでは壮絶だった。
「お小遣いは必要になったら渡す」という母のルールのため、僕の所持金は0円。
参考書はすぐ買えるのに、ゲーム機となるとその道のりは険しかった。
やっと手にしたのは、
友達がカラフルなゲームボーイカラーを誇らしげに使う時代に逆行する、
あの伝説のグレーなやつだ。
僕はモノクロの世界に全力で没入した。
「ポケモングリーン」「ポケモンピカチュウ」は、ショウゴから借りてやってみた。
攻略サイトなんてない時代、ショウゴは僕の攻略本。
とはいえ、周りから「お前まだそれやってんの?」とからかわれる。
でも、ゲームの世界は現実よりも優しく、僕はいつもそこに逃げ込んでいた。
中でも『ドラクエモンスターズ』は僕の人生を変えた一本だ。
通信ケーブルという神アイテムを持つオックンの家にみんなが集結し、
モンスターたちで熱いバトルを繰り広げたあの日々。
みんなの顔が画面越しに真剣になり、
勝敗に一喜一憂するあの時間は、間違いなく僕の青春のハイライトだった。
しかし、その青春はあまりに突然、そしてあまりにあっけなく幕を閉じた。
妹が僕のゲームボーイを「ちょっと借りただけ」で、全てが消えたのだ。
全モンスター図鑑の完成直前のセーブデータは跡形もなく消滅。
画面に映ったのは、スライム1匹だけの新規データ。
あの時、僕の心は空っぽになり、同時にゲームへの情熱も消えていった。
今思えば、あのモノクロの画面に映った世界は、
僕にとってかけがえのない冒険の舞台だった。
失われたセーブデータも、そこに込めた時間も、どれも忘れられない大切な記憶だ。
あの消えた世界は、何かを心から好きでいられる情熱の尊さを、
そっと教えてくれたのかもしれない。