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Cafetalk Tutor's Column

Keisuke.H 講師のコラム

I was a bocchi.56 ゴー・ウェスト

2024年11月15日

あれは、秋の陽射しがやわらかく田舎道を照らしていた頃のことだ。
僕、オックン、ショウゴ、アンチャンの4人は、
ママチャリにまたがり、まだ見ぬ冒険の香りに誘われて出発した。
片道25km、キャンプ場でのカップラーメンが僕らの目的地だった。
 
当時は何もかもが新鮮で、遠くへ行くだけで胸が高鳴った。
行きは軽やかだったペダルも、
帰りにはショウゴの自転車がパンクして地獄のような旅路へと変わった。
あまりにも遅いショウゴを見かねて交代した僕が、
自転車を漕いでみて驚いた。どれだけ力を込めても進まない。
結局、体力自慢のオックンが汗だくで引き受けてくれたおかげで、
夕暮れの家路にようやく辿り着けたのだ。
 
ゲーセンも僕たちの小さな冒険の舞台だった。
当時、音楽ゲームが流行り始めていた。
ビートマニアにダンスダンスレボリューション。
どちらも心を躍らせるには十分すぎた。
校則でゲーセンは禁止されていたけど、そんなものは関係ない。
僕たちは自転車を漕ぎ、15km先のショッピングモールを目指した。
 
中学生の懐は軽い。
電車やバスは贅沢で、結局体力だけが頼りだった。
道中は大声で歌を歌った。
黙々とペダルを踏むのは退屈だし、何より疲れる。
だから僕らは歌う。
サッカー部らしく「イチ、ニ、サン、シ!」と声を揃えることもあれば、
「ショウゴ、遅いぞ!」と最後尾を笑いながら励ますこともあった。
 
「ゴー・ウェスト!」
最初に歌い出したのは、アンチャンだった気がする。
両手をハンドルから放し、バンザイをしながら叫んだ。
もちろん誰も英語なんてわからないから、続きは誰も歌えない。
ただ「ゴー・ウェスト!」と叫び続けるだけだった。
いつの間にかそれは歌でも掛け声でもなく、僕たちの合言葉になっていた。
 
あのとき見た田舎道、冷たい風、夕陽に染まった山々。そして笑い声。
今でも思い出すと胸の奥がほんのり暖かくなる。
 
あの秋の日、僕たちはどこへ向かっていたのだろう。
いや、たぶん、目的地なんてどうでもよかったのかもしれない。
ただただ、自転車を漕ぎ、声を張り上げ、
僕たちの「ゴー・ウェスト」を叫んでいた。
それだけで十分だった。
 
でも、後になって地図を見返して気づいたことがある。
僕たちが目指したゲーセンは、北の方角にあったのだ。

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