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Tutor Rie_Takayama 's Column

人生を変えた本 Vol.2:「心にとどく英語」

May 22, 2016 | 2 Comments

今から何年くらいまえでしょうか、ざっと10年は経っている気がするのですが、写真の「心にとどく英語」(岩波新書:マーク・ピーターセン著)という本に出会いました。たしか、当時ベストセラー本にランキングされていたか何かで、目についたのがきっかけだと思います。

この本は、文庫本サイズでページ数も少なく、英語を勉強するためのいわゆる「テキスト」や「参考書」とは異なり、エッセイスタイルでさらっと読めてしまう内容です。また、英語のネイティブ話者であり、日本の大学で教授として勤務していた著者が、日本人がぶつかりやすい英語表現の壁や、文化的な認識の違いなどをよく理解した上で書かれているので、読んでいてとても興味深いのと、くわえて、出てくる例文が「カサブランカ」や「ローマの休日」、「卒業」など、映画や戯曲の場面で使われるセリフからの引用なので、映画好きにはたまらない面白さでした。

たとえば、「LoveよりLikeの方が・・・」というタイトルの一節。映画「卒業」のワンシーンです。

『彼の最初の言葉は、
Eleine, I like you. I like you so much. Do you believe that?
である。言い方としては、I love youやI'm crazy about youといった、異性を意識した口説き文句ではなく、この場面における"I like you"は、エレーンにだけは正直でいたいという気持ちの「根拠」を示している言い回しである。
ベンはこうした気持ちだからこそ、続けて、
You're the first...you're the first thing for so long that I've liked, the first person I could stand to be with.(本当に久しぶりなんだ、自分が好意をもてるもの、一緒にいて素直な気持ちでいられる人に出会ったのが)。
という。エレーンのことを一度もgirlやwomanなどとは言わない。最初に"thing"、次に”person"といい、おまけに"person"とは言っても、そこに何らかの愛情を感じさせるような言葉を付け加えていない。ただ、" a person I could stand to be with"(これを文字通り訳すと、「一緒にいてもウンザリしない人」という日本語になるのだが)としか言っていない。いかにも「これは決して口説きじゃないぞ」と表明している言い方である。(しかし、このベンのように「決して口説いているんじゃない」という意思をはっきり示すことは、逆に相手の警戒を解いて、結果、効果的な口説きになるかもしれない。)これはベンの強いこだわりを示す言葉だが、残念なことに、この英語表現に対して、私の見たビデオの日本語字幕では「エレーン、君が好きだ。本当だよ・・・・昔から好きだった。一緒にいると心が和む」となっていて、本来のニュアンスとはずいぶん違う印象を与える。これでは逆に陳腐な口説き文句にしか響かなくなる。』

この箇所を読んだ時に、私は「なるほど~!!!」っと唸ったものでした・・・。なぜなら、英語を勉強している女性のひとりとしては、彼がここで言う「陳腐な口説き文句」にこそ、簡単に感動すらしてしまいそうな当時の英語理解力ではあったので。つまり、日本の文化とは逆なんです。日本では普段からあまり心情をはっきり言葉にしたりしないので、ましてやこのような「卒業」のストーリーにあるような微妙な状況と関係のなかで(詳細はぜひ映画をご覧ください^^)、恐らく日本であれば、むしろより「男女の会話」にすることでお互いに相手に伝わりやすくなる。でも、英語圏の国、この映画の舞台であるアメリカでは、日頃からコミュニケーションが日本に比べたらオープンで率直であるからこそ、相手を大切に思う気持ちというのはむしろ控えめなトーンで言うことによってその誠意が伝わりやすいのだということ、その後の様々な出会いや経験からも納得した自分がいたのでした。英語では簡単に「Love」を使わない、というのは男女の関係においては本当のようです。それ以外のことがらに対しては、日本人が「かわいい❤」を連発するのと同じニュアンスで"I love it!!!"という言葉はよく耳にする気がしますが。

こちらの本では、他にも、自分のことを話すときに「エラそうにならないために」”I"ではなく”You"を使うことでより一般論として相手に届くこと、や、使役の”Make"、”Let”、”Have"、”Get”のそれぞれの使い方やニュアンスの違いなど・・・文法の勉強だけではなかなか届かなかった理解の範囲までさらっとわかりやすく触れてくれているので読んでいて楽しめると思います。

私はこの本に出会ってから、英語のニュアンスを理解するということにより敏感になったことと、その際、文法的な理解で終わるのではなく、言葉ひとつひとつのもつ「英語的な意味」というのをより深く知ろうとするようになりました。そして、映画を観るときには、なるべく字幕に頼らず、自分の耳でキャッチした内容から理解しようとするようにもなりました。

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