日本語能力試験(JLPT)のN1レベルになると、日常生活では使わないような表現も出てきますが、すべてが使わないかというとそうでもありません。「帰ろうにも帰れなかった」のような「~ようにも~ない」という表現は日常でもよく耳にします。たとえば、次のような場面です。
昨日、久しぶりに会った友だちと遅くまで飲んでいたら、終電を逃してしまった。帰ろうにも帰れなくて、そのまま朝まで友だちと過ごした。
「帰ろうにも帰れなかった」とは、帰ろうとしたが、あるいは帰ろうという意志はあったが、帰る手段がなく帰ることができなかったという意味になります。単に「帰れなかった」とか「帰ることができなかった」では伝えられない「どうしようもなかったんだ」という気持ちを表現できるので、帰れなかった言い訳をする場面などで日本語母語話者はよく使っています。
では、「断るに断れなかった」という表現はどういう意味でしょうか。たとえば、友だちにお金を貸してと頼まれた。その友だちは最近詐欺にあって、お金を奪われて困っているらしい。かわいそうだから、断るに断れなかった。
どんな気持ちを表しているでしょうか。断る手段がなかったのではありません。心理的に断ることが難しかったという意味になります。
このように「~ようにも~ない」は物理的な事情で、「~に(も)~ない」は心理的な事情で実現が難しいことを表します。
事実として不可能だったことを表すだけなら、N1レベルの表現は必要ないかもしれませんが、N1の試験に出てくるような表現は細かいニュアンスを表し分けるのに便利なものもあります。
試験に合格する目的だけでなく、あなたの日本語による表現力を高めるために日本語能力試験N1の勉強をしてみませんか。