※「京都徒然(つれづれ)」は、わたしが京都にいるときに見たこと、感じたことをお伝えするコラムです。
( 徒然(つれづれ)…何もすることがなくぼんやりしていること)
「京のぶぶ漬(づ)け(お茶漬(ちゃづ)け)※」という話、
有名な話ですから聞いたことがある方もいるかもしれません。
※お茶漬(ちゃづ)け … ご飯にお茶をかけた料理
京都では、
お客さんにそろそろ帰ってもらいたいと思ったら、
「ぶぶ漬(づ)け、どうどす?(どうですか)」と聞くという話です。
それじゃあご馳走(ちそう)になりましょうと待っていたら、
この人は、気が利(き)かない人、礼儀(れいぎ)を知らない人、
図々(ずうずう)しい人、だと言われるという話です。
もちろん、
今や京都では「ぶぶ漬(づ)け」という言葉を聞くこともなく、
都市伝説(としでんせつ)のようなものだと言われています。
※都市伝説(としでんせつ) … 本当かどうかわからない噂(うわさ)
ただ、似たような話はたくさんあり、
私が、学生時代、下宿(げしゅく)していた部屋の2階に
大家(おおや)さんのおばあさんが住んでいました。
あるとき、私が風邪(かぜ)をひいて、
何日も夜中に咳(せき)が止(と)まらなかったことがありました。
朝、おばあさんが部屋にやってきて
「えらいつろそうな咳(せき)でんな、気いつけや」
(とてもつらそうな咳(せき)ですね、気をつけてくださいね。)
と言ってくれました。
なんてやさしいことを言ってくれるんだろうと思いました。
でも、次の日もおばあさんはやってきて
同じことを言いました。
そして、次の日も…。
その時になって、
私もやっと
おばあさんが
「あんた、うるさいよ、もう少し静かにしてくれないと眠れないよ」っていう
メッセージを送ろうとしているのだとわかりました(笑)。
このように、
伝えたいことを、ストレートに言わずに、
遠回(とおまわ)しに伝えたいことを伝える文化は
今でも京都にあるようです。
これを、京都の人の「いけず(意地悪(いじわる))」と言う人もいますが、
私は、これこそ、
京都1200年の歴史の中で培(つちか)われた
洗練(せんれん)されたコミュニケーションのスタイルだと思っています。
17世紀に、日本の政治の中心が江戸(東京)に移(うつ)るまでは
約1000年の間、京都は日本最大の都市でした。
1200年の間に、この狭(せま)い街で
支配者(しはいしゃ)も代わり、
戦乱(せんらん)で何度も街が焼けました。
京都で生きていくということは、
想像以上に大変だったのだと思います。
その中で、人と人が争(あらそ)わず、
お互いの距離を程(ほど)よく保(たも)って暮らすために、
「言いたいことを遠回(とおまわ)しに言う」という
コミュニケーションのスタイルが生まれたのだと思います。
京都に限(かぎ)らず、
日本人は、言いたいことをストレートに言わない、と言われます。
ストレートに言って相手との関係を悪くするよりは
遠回(とおまわ)しに言って、
お互いが傷(きず)つかないように問題を解決する、
それが日本人のコミュニケーションのスタイルです。
グローバル化が進み、
日本人も、外国の方々と
気持ちを通じ合わせることが大切になっている時代、
このようなコミュニケーションのスタイルが
外国の方に通用するかどうかわかりませんが、
言葉は、その国の文化と切っても切り離(はな)せないものです。
外国の方には、
そのような日本の文化も含めて
日本語を勉強してもらえたらうれしいと思います。
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KOBA
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