コピー機が一台しかなく、順番を待っている女性社員が次のように言ったら、あなたはどう感じますか?
(1) 田中さんが終わったら、コピーしてもいいんですか?
「いいんですか?」ってダメって言ってないでしょ。なんかイライラしているのかな。感じ悪いな。そんな風に感じるかもしれません。では、文の最後の「んですか」を「ですか」に変えたら、印象が変わりますか?
(2) 田中さんが終わったら、コピーしてもいいですか?
「あ、いいですよ。すぐ終わりますから、ちょっと待ってください」特にイライラしているような印象を与えませんし、普通の会話として成立します。なぜこのような違いが起こるのでしょうか。
他にも、生徒が授業中に先生の言ったことが理解できなくて、「何ですか?もう一度言ってもらえませんか?」と聞き返す場面で「何なんですか。もう一度言ってもらえないんですか?」と言ったら、この生徒はかなり怒っているに違いありません。また、朝、登校してきた生徒が校長先生に「先生、おはようございます。今日もお元気ですか?」と言うところを「先生、今日もお元気なんですか?」と聞いてしまったら、校長先生は「え?私が元気だったら何か問題ある?元気で悪かったね」と怒ってしまうかもしれません。このように、最後に「んです」を加えることで変な意味になってしまうことがあります。
初級の日本語の授業で「~んですか」を教える場合、たとえば、家族がいっしょにご飯を食べるとき、おばあちゃんがぜんぜん食べようとしないので、心配になって「どうして食べないんですか?」とか「どうしたんですか?」のように聞く場面が取り上げられます。この場合は「んです」を加えたほうが自然で、「どうして食べませんか?」「どうしましたか?」という聞き方は不自然です。なぜこの場合は「んです」を付けた形にするのでしょうか?
「んですか(のですか)」を使う場合には、「前提(ぜんてい)」が必ずあります。おばあちゃんがご飯を食べないことを見て知っている状況で、その理由を尋ねたい場合に「~んですか?」の形になります。最初のコピーを待っている場面なら、田中さんが大量のコピーをしている途中で作業を止めて、「時間がかかるから、先にコピーしてもいいよ」と言ってくれたら、田中さんが作業の途中であることを知っているので、それが前提になって「今、コピーしてもいいんですか?」という質問が自然になります。また、生徒が先生に「~してもらえないんですか?」と聞くのは、たとえば、他の先生は許してくれたのに、「許してもらえないんですか?」とか、以前は放課後に体育館を使わせてもらえたのに、「今は使わせてもらえないんですか?」などのように、別の許可をもらえた状況を思い浮かべて質問する場合でしょう。先生に「お元気なんですか?」と聞くのは、先生が事故にあったと聞いたとか、病気で入院しているとうわさで聞いたなどの場合でしょう。
つまり、質問する前に何か質問と関係のある状況を知っていることが前提になっています。そのような前提がなく、いきなり「いいんですか?」「お元気なんですか?」と質問してしまうと、質問された人は何かそう質問したくなるような状況があるのかなと考えてしまって、たとえば「あなたがいつまでもコピーしているから、私がコピーすることはできないのかと思っていたけど、いいんですか?」などのような深読みをしてしまって、変な解釈になってしまうということです。
「んですか」を使って質問する時には目の前の状況や聞いた話などの前提があるということを覚えておくとよいでしょう。【関連するYouTube動画】
https://youtu.be/RQxx7gBwcx0