私のCafetalkのレッスン料を2024年4月1日から値上げさせていただくことにいたしました。その理由については、日本における物価上昇率や日本企業の賃金上昇率に合わせて適正価格でのご提供が必要と考えたからですが、このコラムでは、私個人だけでなく業界全体にとっての報酬適正化の意義を考えてみたいと思います。
「日本語教師の報酬適正化がなぜ必要か」について、次の2点を挙げたいと思います。
1)外国人労働者との共生を目指した社会インフラ整備として
2)人材の流動化が高まる中で日本語教育業界が生き残るため
1)外国人労働者との共生を目指した社会インフラ整備として
外国人労働者人口は、2022年10月末時点で約182万人(厚生労働省「外国人雇用状況」より)で、これは届け出が義務化された2007年以降で過去最高の人数だったと言います。今後も、日本の少子高齢化による労働力不足を補うため外国人労働者のさらなる増加が見込まれます。
外国人が日本で就業するために日本語能力が必要なことはもちろんですが、生活者として外国人が地域で孤立することなく、安全に快適に暮らすためにも日本語能力が不可欠です。当然ですが、日本で生活を営んでいく中では、子どもに高度な教育を受けさせたい、安心して医療サービスを受けたい、親の介護など、十分な福祉サービスを利用したい、地域の人たちと良い人間関係を築いて円満に暮らしたい、などなどのニーズが生じます。しかし、異なる言語、文化、習慣を持つ人が日本で学校教育を受けたり、医療サービスを受けたり、福祉など様々な社会制度を利用したりするうえで日本語が大きな障壁となります。日本が外国人労働者を受け入れる以上、彼らが安心して日本で暮らしていけるように、最低限の日本語を学習する場や手段を提供する必要があります。ところが、現状ではそのような生活者のための日本語教育を支えている日本語教師の多くは無償のボランティアです。文化庁の「令和4年12月 日本語教育 参考データ集」によると、国内の日本語教師の約5割がボランティア、非常勤講師が3割、常勤が1割という状況のようです。
高い志を持つボランティア日本語教師の方々は、自費で日本語教育を学び、献身的に教育や学習支援にあたられており、そのおかげで現状では高い質の日本語教育が無償で受けられるボランティア日本語教室が日本各地に存在します。しかし、ボランティア日本語教師の善意に頼っている現状は持続可能な社会のあり方とは言えません。SDGsの目標の中に「質の高い教育をみんなに」という理念がありますが、日本における外国人児童への教育や外国人生活者のための日本語教育は持続可能性の観点から大きな課題を抱えています。「質の高い教育」は日本語教師の国家資格化の文脈の中でよく語られますが、教師が資格を身につけても適正な報酬が得られないようでは、将来的に日本語教師不足になるのは目に見えています。すべての日本在住外国人が質の高い日本語教育を受けられ、日本社会に参画できるといった共生社会の実現のためには、日本語教師の待遇改善が欠かせないと思います。
2)人材の流動化が高まる中で日本語教育業界が生き残るため
冒頭で触れたように、日本では近年急速に物価が上昇しています。特に2022年以降、消費者物価指数が3%以上の上昇率となり、それに合わせて2023年になって日本の民間企業でも賃上げの動きが見られています(令和5年8月31日「内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 基礎資料」より)。
今後、賃上げできる成長産業に人材がどんどん集まり、賃上げできない業界は見放されていくのではないかと思います。また、そうでなければ日本経済の成長はないので、それがあるべき姿だとも言えます。
すでに述べたように、日本語教育業界はそもそも職業として報酬を得られない人も多いわけですが、無報酬でも地域の外国人のために一肌脱ごうと言えるのは経済的に恵まれた方々に限られ、日本社会では相対的に高齢者の方が経済的に恵まれている割合が多いことから、構造的に業界が高齢化していく運命にあります。
地域の日本語ボランティア教室で教える日本語教師にどの財源から報酬を支払えるのか、日本国民全員が税金で負担すべきなのか、現実には頭が痛い問題が山積です。外国人の自己責任だとしても、日本自体に魅力がなければ対価を払って日本語を学ぶ人口は減っていくわけで、日本に働きに来てくれる外国人労働者が減っていくことにもなるため、日本全体の問題でもあります。
私がオンライン日本語教師の一人としてできることは、適正な報酬をいただき、その報酬に見合ったレッスンを提供することだと思っています。もちろん日本語教師も自由競争をしているわけですが、日本語教育業界全体にとっても、日本語教師が適正な報酬を得て、継続的にレッスンを提供できることは非常に重要な意味を持ちます。私はそのような考えで、レッスン料を適正に保ち、生徒様の理解を得ていくことに今後も注力したいと思っています。