人間の思ったことが現実の世界をつくる
私自身の経験と照らし合わせても、天風氏やマーフィー博士のこの考えは間違いではないと感じます。例えば、私の自宅には10万冊くらいの蔵書のある書庫と、池のある庭があります。なぜこういう家に住むようになったのかと考えるうちに、幼少期、最上川支流にある祖母の生家に遊びに行っていた時の体験に突き当たりました。
その村の民家の庭先にはどこも池があり、そこで鯉や鮎などを飼っていました。夏休みに池の鮎を焼いて食べさせてもらうのが楽しみでした。そして子供心に「こんな池が欲しい」と思うようになっていました。
一方の蔵書については、高校の恩師・佐藤順太先生の本格的な書斎を見せていただいた時に「このような書斎を持ちたい」と大きな衝撃を受けた経験が大きかったと思います。
鮎や鯉が泳ぐ民家の池、佐藤先生の書棚に並ぶイギリスの百科事典、ゆったりとした着物姿で応対されする先生の姿、書斎の脇にさりげなく置かれた碁盤……その1つひとつのシーンをイメージし、それを手にする願望を入眠時に思い描いていた。それがいつのまにか私の潜在意識を動かしていったのでしょう。
天風氏は観念要素を入れ替えるだけでなく、それを信念にまで高めることを強調します。自分が念願することを頭の中でありありと映像化することを習慣化することで、その思いは現実のものとなっていくのです。
このことを天風氏は「信念の魔術」と表現していますが、これは何も特別なことではありません。私たちの社会を見渡すと、高層ビルも飛行機もテレビも自動車も茶碗も、大自然以外はすべて人間が考えて現実化させたものです。
家を建てる人は、まずその全体をイメージします。それに基づいて設計し、実際の工事に入るわけですから、元となる出発点は〝頭の中〟ということになります。「信念の魔力」という表現は決して超常的ではなく、むしろ極めて現実的というべきでしょう。
積極的観念を潜在意識に送り込むには、このほかにも重要なポイントがあります。天風氏は特に言葉の使い方を力説し、ネガティブな言葉――「困った」「弱った」「情けない」「悲しい」「腹が立つ」といった言葉――を厳しく戒めます。
先ほど言ったように「暑くて大変だな」という何気ない言葉でも、「暑いな、夏は暑いほうがいいな」と前向きに切り替える習慣をつけていくことで、潜在意識もプラスに変わっていくというのが氏の考えなのです。