好きな演奏家、好きな歌手、好きな作曲家...
年齢やそのときの状況と共に共感するものも変わってきますが、
初めて録音を聴いて以来、ずっとその存在を忘れないのはNathan Milsteinです。
岡山の新星堂でずっ〜っとそのCDジャケットは眺めていましたし、
古澤さんの先生なんだ〜、ノクターンの編曲の人だ、
パガニーニアーナを作った人なんだ〜、程度で
ずっとお小遣いがそのCD代になることはなかったのですが、
大学1年の時にたまたまベスト盤のCDを買ったんです。
最初の音の衝撃…今でも思い出します。
弓のローンで手放してしまいましたが、彼のほぼ全てのCD、
DVDを40枚以上コレクションしていた時期がありました。
自伝とインタビューの2冊は本も持っています。
手に入らない書籍も、図書館でコピーしてよく読みました
彼の言葉は斜に構えているという人もいますが、純粋でシンプルです。
そして、それが音楽の演奏には本当に大事なことだと僕は感じています。
「いったい音楽を客観的に演奏することができますか」
「私はそういうもの(音楽の中に使命を見出すこと)はないと思うのです…略
とにかくそのような使命は持っていません。
音楽がいつも好きだということが、使命だと言えなければね」
などなど。
彼は、ケンカっ早い少年で、ヴァイオリンには全く興味がなく
母親の希望でヴァイオリンを習うことになった人です。
でも、お稽古の中で音楽にのめり込んでいった。
ドキュメンタリーで彼に触れた人々が口にすることは同じで
「いつも弾いていた、常により良い方法を探していた」
そして、82歳まで公に演奏会を開いていました。
しかも、この82歳のときは同じプログラムの演奏会で2回ドキュメンタリー撮影が入ったものの、
左手の小指の故障で1回目はうまくいかず、
2回目では小指を庇いつつ最高のパフォーマンスをできるように
演奏手段を変えています。
音楽が好きだからこそ、この演奏ができるんだろうと思わずにはいられません。
逆の言い方をすれば、賞を取りたい、華やかに弾きたい、いっちょ儲けまっか!と
目的が音楽以外になると、こうは弾けません。
レッスンで表面的な取り繕いを厳しく注意している理由がピンとこない方は、
ぜひNathan Milsteinの録音に触れていただきたいと思います(笑)
僕はこのレコードのジャケットの厳しい視線をいつも感じています。