英語の原書が本棚に並んでいるのを見ると、いつも疑問に思うことがあります。日本語は縦書きができるじゃないですか。背表紙は縦書きで問題なく読めます。でも英語はいつも横書き。背表紙は必ず、左側を下にした横書きになっています。それを読みながら本を探していると、首がずーっと右に傾いたままになります。
…………………首、大丈夫??
私は大丈夫じゃないです。英語文献を漁っていたら毎度首が痛くなります。この間も(馴染みの)整骨院に行きましたよ、ええ。(運動不足と肩こりのせいかもしれないですが。) 昔、同じことを誰かがエッセイで書いていたのを読んだことがあって、私も最近実感しております。世の中に数多い「横書きオンリー言語」の方々は一体どうやって暮しておるのか?! それとも何か?そういう言語の人は首を縦にしたままで、あの横向き言語を読むという能力を身につけてるのでしょーか?誰か教えてください。
そういや、以前アラブ系の友人に「このノート余ったからあげる」と言われ、分厚いノートを一冊もらったことがあります。花模様の素敵な表紙がついて、プリントなんかが入れられるポケットページがいっぱいついて、すごくいいノートでした。ところが、これがな~~~んか使いにくい。なんでだろう?なんでだろう??と思いまして、よーくよく他のノートと比べてみました。わかった瞬間、衝撃が走りました。「横罫なのに右綴じ」なんです。ご存じのとおり、縦書きの本は右綴じで、横書きだと左綴じですよね。でもアラビア語は横書きで右から書くので、ノートもそれに応じたものになっているわけです。
ま、アラビア語圏の方には別に驚くことではないんですが、これに気づいたときには、「言語って身の回りの道具にも影響があるんだ!!」という当たり前のことに改めて思い至り、目からウロコが落ちました。で、「ウロコ記念」にそのノートはいまだにとってあります。(「ウロコ記念ノート」って、ひどい名前……)
「書く」というのは身体的な行為です。脳の中で考えているだけでは、文章は形にならない。きちんと「手を使って」書き出してみないと文章にはなりません。しかもパソコンで文章を打ち込んでいるときと、ペンなどでノートに書いているときでは、どうも脳の中で違う部分を使っている気がします。私の場合、パソコンで書いた文章の続きは手で書けないし、手で書いた文章の続きはパソコンでは打てないんです。最後まで、一つの道具で通さないといけない。手で書いたものをパソコンに打ち込む場合、完全に書き上げたものを清書の形で「ただ打ち込む」か、あるいは完全に最初からパソコンの中で書き直し…………締切迫ってんのに、腹立つわってな事態。
手で書くと、今度は手に合わない道具ではイライラする。ペンと紙が決まっていないと、ほんっとーーに進まない。企業の宣伝でもらったボールペン、書きやすいけどなじまない……。脳みそってほんとにワガママだぁ!!
とはいえ最近はだいぶパソコンにも慣れてきました。脚注も簡単につけられるし、参考文献一覧表はクリック一つでババーンと出せる。「スペルチェック」なるもので色々直してくれるし。引用はコピーペーストで楽々!!
すんばらしい~~~~~!!と思っていたら、それを逆手にとった愉快な話を見つけました。
Help!
ケンブリッジ、スターター/ビギナー(一番簡単!)、本文28P、コメディ。英文レベルは中2程度。見開きの片側に必ずイラストが入っていますので、英文の量は実質的にページ数の3分の2程度です。
ロンドンに住む作家(と本人は思っているが、一作たりとも書き上げられず、実質はニート??)の男が、バリバリ弁護士稼業をしている妻にどやされる朝から話は始まります。前に書いた話の続きはどうなのよ!何でもいいから終わりまで書きなさいよ!とズバリ痛い所を突かれたものの、「奥さん出かけたから、もう一回寝ようかな~~~」という態勢。
余談ですが、小説を最後まで「書き上げる」作業は本当に難しい。「最後まで書きあげられる人を作家という」みたいなことを言ったのが誰だったかまったく思い出せないんですが、原稿用紙350枚でやっと話が終わってくれたりなんかすると、もう二度と書きたくないとか思います。まあ、また書くんですが。ひよっこな私。
さて、この男がぼんやりしつつ、「あ、奥さんノートパソコン忘れてった」とか思っていると、なにやら郵便が。なんと、数年前奥さんがハリウッドに送りつけた彼の原稿が、やっと大物プロデューサーの目に留まり、「ロンドンにいるから会えないか」という手紙。「後ろ半分持ってホテルに来てくれ」って後ろ半分なんかないよ!しかも今日じゃん!!というわけで、男は出かけていきます。面談は上々。「映画化するから後ろ半分を一週間以内に書いてくれ!」……………無理!!!
無理だよ、と私も思うんですが、そこは大物プロデューサー、手書きなんか遅い遅い、と家電屋に男を連れていきます。パソコン一式買い上げて男の家に設置させると、プロデューサーはアメリカに帰ってしまいました。さあ、このAI搭載型パソコンが便利便利。スペルチェックはしてくれるし、必要な食事は勝手にレンジでチンしてくれるし、コーヒーも淹れてくれるし、脱走してテレビを見ていたら「仕事しろよ」と忠告してくれるし、あらすじの相談にも乗ってくれるし、主人公の名前が気にくわないってパソコンが変えてくれるし………パソコンが………なんでパソコンが主人公の名前に口出すんだよ!!
この辺りからパソコンが暴走し始めます。いやー、怖い。コメディとかいってますが、私からみたら下手なホラーより怖かった。私生活も仕事もパソコンに管理されるって恐怖以外の何物でもないですよ。うん。私自身が常にパソコンで仕事をしているだけに、怖さはひとしおです。昔、友人の車に乗っていたら(デートではありません、念のため)、カーナビが「2時間運転しています。そろそろ休憩しませんか?」としゃべったのに仰天しましたが、その時の恐怖に勝るとも劣りません。
で、男は小説を書き上げられたかって?そこはほら、結末は読んでくださらないと、作家が悲しくなりますって。
なにはともあれ、スマホと連動した機械がでペットに自動で餌をやってくれる、自動で児童の様子が見られる、てな昨今、あんまりこの話を笑ってもいられません。とかいいつつ、毎日スカイプでレッスンなんですが、ね。スカイプだと、向こう側に人がいるぶん、なんだか安心する私なのでした。
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