『赤い実はじけた』ほどドラマチックではなかったけれど、
あの頃、僕にも突然のモテ期が訪れていた。
意を決して手紙で告白すると、思いがけず「いいよ」という返事が届いた。
直接伝えられない自分が少し情けなかったけれど、
自分のことを好きでいてくれる人がいるなんて思いもよらず、
驚きと嬉しさで胸がいっぱいだった。
そんなふうに誰かと気持ちが通じたことが誇らしくて、少し浮かれていたんだろう。
学年委員長の特権を使い、席替えで彼女の隣に座れるようにしてしまった時も、
当時の僕には少しの後ろめたさもなかった。
案の定クラスメイトからは「横暴だ」「やりすぎだ」と責められたけれど、
「もう決まったことだから」と押し通した。
今思えば、あれは僕の中での精一杯の「特別」だったんだろう。
あの頃の課題で、グループごとに名前をつけ、
リーダーの名前を画用紙に書くというものがあった。
僕はまた、何気なく彼女と同じグループに配置していた。
グループ名がなかなか決まらず、
放課後もクラスメイトを見送って僕たちだけが残される。
どうしようもなく気まずい沈黙に耐えきれなくなった僕が提案したのは、
『FIRST KISS』
もちろん、他のメンバーからは大笑いされて、
「お前、何考えてんだよ」と冷やかされた。
でも誰も代案を出さないまま、その名前が通ってしまった。
自分でも大胆すぎると感じたけれど、その時はそれ以外の言葉が出てこなかった。
翌日からは、クラス中にその名前が知れ渡り、
「ファーストキスしたの?」と何度も聞かれた。
その度、僕は笑ってごまかすしかなかった。
…本当に、あの時僕たちはファーストキスをしたのだろうか?
答えは、みなさんがどう想像するかに任せるとしよう。