講師コラムの今週のトピックは「音楽と言語」ですね。
覚えにくいものを歌で覚える、ということはよくあると思いますが、ここでは、その反対に、音楽を言葉で覚える、ということについて書いてみます。
冒頭の楽譜は、長唄の《藤娘》の出だしの三味線の楽譜です。
大きな数字は、左手の指で糸を押さえる勘所(ツボともいいます)の場所を表しています。数字どおりに左手指で押さえ、右手の撥で糸を弾けば、出したい高さの音が出ます。
さて、日本にドレミが入ってきたのは明治時代。その前は、音楽をどのように言い表していたのでしょうか。
日本にもドレミにあたる用語はあるのですが、それよりも、楽器ごとに唱える言葉のほうがよく使われてきました。専門的には唱歌(しょうが)と呼ばれますが、口三味線と言ったりもします。
三味線だったら、「チントンシャン」とか「チリチリ」とか「ツルツル」など。
冒頭の楽譜だと、数字の上に小さく書かれたカタカナが、それです。最初の5小節には「チャチャチャチャ…チャーンラン」と書いてあります。和音で2本の糸を一緒に弾く音が続いて、最後は撥を返して弾きます。
お箏だったら、「コロリンシャン」とか「トテトテ」など。《六段の調べ》の出だしは「テーントンシャン」と言います。
尺八だったら、同じ《六段の調べ》は「レーツローロー」と始まります。
雅楽の篳篥(ひちりき)は、《越天楽(えてんらく)》の出だしを「チーハーロールロ」と吹きます。
一見、適当にカタカナで表現しているように見えるかもしれませんが、一応、楽器ごとに法則があります。ですので、きちんと覚えておけば、楽譜の代わりにもなります。
以前、専門家の方とお話ししたときに、その方が「ああ、あの曲ね。○×○△◎☆*×~」と高速の唱歌を唱え始め、ついていけませんでした。もはやメロディーというより、セリフのような感じ。
楽譜をメインで使わない、昔ながらのお稽古で音楽を身につけた人の頭の中はこうなっているんだな~と感心した出来事でした。音楽を言語化して頭の中にストックしているのだと思います…。