日英バイリンガル講師の スティーブン 孝之 シャレットです。
先日、とある生徒様から、とても面白いレッスンの提案を頂きました。要点だけ掻い摘んで端的に述べると、トリッキーな日本語を翻訳するというご提案でした。 ちょうど、翻訳ツールの急激な精度向上と英語教育の関係について考えていた時期でもあり、本日は、このご提案をベースに、テクノロジーと英語教育について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
まずは、ややこしそうな日本語の文章を、僭越ながら人間を代表して、わたくしスティーブンが、一方、AIはDeepL翻訳に代表して頂き、翻訳結果を見比べるところから始めてみましょう!
AIのご紹介
今回AIを代表していただくDeepL翻訳については、多くの方がご存知かもしれませんが、驚くほどの翻訳精度を誇る最先端の翻訳ツールです。
人間のご紹介
カフェトークで英語を教えているバイリンガル講師のスティーブンです。
下記の文章を、はじめに私が翻訳してみます。
次に、そのままこの日本語の文章をDeepL翻訳にぶち込んでみます。
(※DeepLの翻訳結果はその都度変わることがある旨をご留意下さい。)
【小説テイストのややこしい日本語の文章】
ある日の昼下がり、木漏れ日の下で、友達以上恋人未満という表現が適切でしょうか、絶妙に微妙な関係のスティーブンとステファニーは、それぞれコーヒーと紅茶を飲んでいました。
お互いが半分ほど飲み終わったところで、ステファニーが「私たちの余った飲み物を混ぜ合わせたらどんな味がするか、ちょっと試してみない。」と不思議な提案をしだしました。スティーブンは、まだもう少しコーヒーを楽しみたかったので、本心は断りたかったのですが、彼女の熱意に押され、結局は渋々と承諾したのでした。
混ぜ合わせた液体は、意外と不味くなかったので、二人はパチリと目を見合わせました。スマートフォンで調べてみると、彼らが今飲んでいるものは、なんと香港にある鴛鴦茶という、コーヒーと紅茶を混ぜ合わせた実際に存在する飲み物であることがわかったのです!
ステファニーの好奇心によって、二人は新しい知識を得ることができ、そして関係性も少し前進したかも・・・という、何ともほっこりするお話ですね。
<Translated by Stephen>
One Afternoon, under the sunlight shimmering through the trees, Stephen was drinking a cup of coffee while Stephanie was sipping on a cup of tea. Stephen and Stephanie were in a delicate relationship that can be best described as more than friends and less than lovers.
When they had both finished about half their drinks, Stephanie all the sudden made a curious suggestion to Stephen. “Why don’t we try mixing what we have left of our drinks and see what it tastes like?” Stephen wanted to enjoy his coffee a little more and was first reluctant about Stephanie’s curious idea, but gave in to Stephanie’s suggestion when he noticed her profound enthusiasm.
After mixing the two drinks together, they both gave a little sip. The mixture was not bad at all. They quickly glanced at each other in agreement. A quick internet search on their smartphones revealed that Hong Kong actually has a drink called Yuenyeung which is a mixture of coffee and black tea. Exactly what they were drinking!
Stephanie’s curiosity had led to them to newfound knowledge. Could this be another important step for them to advance their relationship? What a heartwarming story.
<Translated by DeepL>
One afternoon, under the sunlight filtering through the trees, Steven(※1) and Stephanie, who have an exquisitely(※2)delicate relationship that can best be described as more than friends and less than lovers, were drinking coffee and tea, respectively(※3).
When they had each finished about half of their drinks, Stephanie made a curious suggestion: "(※4) Why don't we mix our leftover(※5) drinks and see what they taste like when we mix them together? (※4) Stephen(※1) was still enjyoying his coffee a little more.(※6) Stephen(※1) wanted to refuse, because he still wanted to enjoy the coffee a little more, but her enthusiasm finally made him reluctant to accept. (※7)
The liquid mixture was surprisingly not unpleasant(※8), and they both snapped(※9) a quick glance at each other. A quick check on their smart phones revealed that what they were now drinking was, to their surprise, a drink that actually exists in Hong Kong called mandarin duck tea(※10), a mixture of coffee and black tea!
Stephanie's curiosity led to new knowledge(※11) for both of them, and maybe a little progress in their relationship...what a heartwarming story!
・(※1) 同じ人物の名前の綴りが文中で異なっている。
・(※2) exquisitelyは、精巧に作られたものを強く修飾する際によく使われる単語です。日本語訳として「絶妙な」がよく使われますが、ここでの「絶妙に微妙な」という表現はニュートラルなニュアンスなので、使用例としてあまり適切な印象を受けません。
・(※3) respectivelyは、記事や論文でよく使いますが、固い印象を受ける表現です。この日本語の文体に対して使われていると違和感があります。
・(※4) ダブルコーテンションの終わりが抜け落ちている
・(※5) leftoverは次に日に食べる残り物、食べ残し、という意味合いで使われ、飲み物には通常使用しないと思います。(少なくとも私は使ったことがありません。)
・(※6) 次に続くセンテンスの中で同じ内容が重複している為、不必要なセンテンスです。
・(※7) DeepL翻訳では「彼女の熱意」によって「渋々受け入れる」ことになったと直訳されていますが、Stephen翻訳では、スティーブンは、はじめは断りたかったが、彼女の熱意によって心情が変化し、受け入れた経緯が細かく表現されています。
・(※8) 絶対に不味いと確信していたのいも関わらず、不味くなかった場合は、not unpleasant でも不自然に感じませんが、この文脈では、二人は飲む前に、絶対に不味いと確信していたとは言い切れないので、やや不自然な表現に感じます。
・(※9) snapには色々な意味合いがありますが、溜まっていた怒りが弾ける、というニュアンスもあります。Stephen翻訳では、目が「パチリ」と合ったという部分に隠された心情に重点が置かれていますが、DeepL翻訳は、字面(じづら)をそのまま英語にしたような、直訳的な印象を受けます。
・(※10) 英語にそのまま直訳されていますが、広東語でYuenyeungと呼ぶそうです。
・(※11) 新しく得た知識を表現する場合は、newfound knowledge を使う方がより自然です。
余談: 「鴛鴦茶」には、男女二人で飲む茶という意味もあり、1925年にミュージカル『No, No, Nanette』のために作られ、世界的にヒットしたジャズのスタンダード「Tea for Two」(邦題:二人でお茶を」)には「鴛鴦茶」という中国語のタイトルがつけられているそうです。
<まとめ>
・人名のスペルに統一感がない、「”」が抜けるなど、ちょっとした間違いが気になる。
・日本語での慣用句的な表現、言い回しは、基本的に直訳的になる印象。
・日本語の文体に応じた表現、行間に込められた細やかなニュアンスまでは拾いきれていないと感じる。
・しかし、意味を伝えたいだけなら、DeepL翻訳はかなりの精度を誇るので重宝するであろう。
・翻訳ツールは、文章に書かれている概略を知りたい時、相手にとりあえず意味を伝えたい時には便利だが、現時点で100%の精度というのは期待できない。
・使用するとしたら、AIが翻訳しやすいように、主語や目的語をはっきりと明確にする、簡潔に書くなどの工夫をした方が良いだろう。
・英語力がある人は、必ず、自分で確認して直すべきところを直すべき。
・英語に関わらず、書くことへの意識がどこまであるかは、人によって違うと思いますが、ご自身の言葉や文体を大切にしたい人、また、文学的な表現を追及したい方は、翻訳ツールからではなく、ぜひ英文学等から学ぶことを推奨します。
今後、翻訳におけるテクノロジーがどこまで進化するかは、分かりませんが、今の時点で言えることは、まだまだ、AI+ヒューマンパワーが必要というところでしょうか。
また、このような比較をしてみることで、英語講師や翻訳の仕事の役割がより明確になる気がしました。私の英作文添削、また翻訳のレッスンでは、日本語と英語間の文化の違いを踏まえた表現を探り、TPOに応じた文体や文格を使うよう、適切な指導を心がけています。
最後に、今週のトピックについても同様に比較してお別れです!
Weekly topic: What are your summer plans? / 夏の予定は?
<回答(日本語)>
出雲大社に行ってみてえー!
<Translated by Stephen>
I really want to go to Izumo Taisha!
<Translated by DeepL>
Try going to Izumo Taisha!
(「行ってみてえー!」→ 「行ってみて(みたら)?」と解釈されたようです。)