「彼女ね、僕と結婚する前 好きな人いたよ…」
愛子には、アランと結婚する前
好きな男(ひと)、付き合っていた男(おとこ)がいた。
そして、その男には妻子がいた。
愛子よりも、ひとまわり以上も年上の
これと言って特別なものがあるように見えない、中年男。
よくある
「妻とはうまく行っていない。
君を一番愛している。
いつかは一緒になろう」
そんな言葉に、愛子は繋ぎとめられていた。
しかし、その関係が1年、2年と続いていった時、愛子は身も心も疲れてしまった。
そんな時に出会ったのが、アラン。
フランス系カナダ人
ルックスも悪くない
国際恋愛
何だか、お洒落に見えるじゃない!
何より、あの不倫相手の男に「見せつけられる」
そして
アランは、優しかった。
一生懸命、愛子のために何でもしようと、してくれた。
なのに・・・何か物足りなかった。
愛子とアラン、ふたりの間には、通い合うものがなかった。
愛子はいつもそう、感じていた。
彼女はアランとの結婚生活の中で結局、男との秘め事を繰り返した。
アランとの生活
そして、アラン自体が愛子には窮屈で 退屈でならなかった。
結婚から3年経ち・・・ついに、愛子はアランに別れを切り出した。
そこまで話すと…
アランは、最後に呟くように言った。
「彼女、きっと僕のとこ 戻ってくるね。
僕は、ずっと 彼女待ってる」
わたしは、アランのたどたどしい日本語で聞かされる“その話”の情景を
頭のなかで映像化していた。
そして、そのドラマのなかの二人
愛子に腹が立ち
“何も見えずにいた”アラン。彼にも無性に腹が立ってきた。
こんな”三文芝居”のような話
きっと、アランが脚色した話に違いない!と思った。
しかし、意外と世界は狭かった。
私の同僚リサはアランをよく知っていた。
彼女は以前、日本でアランと同じ町で英語教師として働いていた。
当然、愛子のことも良く知っていた。
アナザーストーリーは語り部を変えて続いていく…。
愛子が別れを切り出した頃、男は、妻と離婚していた。
彼女の気持ち、そしてカラダは一気に 男の元に帰ってしまった。
アランは愛子から言われるままに黙って離婚に応じ
大好きな”日本”に居る事も出来なくなり
生まれ育った、カナダに戻った。
ずっと、本当は愛子から愛される事もなく裏切り続けられていたのに
アランは、遠い遥か彼方の日本が
愛子が、今も恋しかった。
生まれ育ったカナダに帰ることは、彼にとっては寂しすぎた。
語り部は最後に言った。
「最初から無理だったのよ。
だってね、結婚した頃。あの二人を繋ぐものなんて無かった。
アランは日本語が出来ない。愛子は英語もフランス語も出来ない。
そんな二人が結婚したんだから」
結局、愛子はアランの元には帰ってこない。
ユーミンのCD、日本製の歯磨き粉、日本の雑誌。
それは、まぼろしのような二人の関係の”形見”。
ただ、愛している
という気持ちだけで
アランが、愛子を待っているのか、わたしはわからなかった。
ズルい女と
何も気づかず、わからないでいた滑稽な男。いや、わかっていたのかもしれない。
いずれにしても、奇妙な愛・結婚・離婚・そして…。
タイムリミットはやってきた。
わたしは、予定よりも早くケベックを離れる事になった。
“この男”アランとの、一軒家での日々も終わりだ。
アランは、わたしを見ているのか 見ていないのか
わからないような虚ろな目で
一軒家のドアの前に立ち、わたしを見送っていた。
あれから、ひとり
彼はまた
愛子の好きだった、ユーミンの曲を繰り返し聞いていたのだろうか。
哀しさと 滑稽さの狭間で
何処まで 彼は待ち続け
彼女がその後、彼のもとに帰ってきたかはわからない。
でも、あの何もない町で
寂しい彼方で
寂しいカナダで
今でも、アランが、誰か話相手を
待ち続けているような
気がする…The End.
荒井由実「まちぶせ」
もう23年も前の事ですから、今も待っているとは思いませんが。
アランが幸せになっていたらいいな…
それだけです。
TORIA (o ̄∇ ̄)/