一昔前から日本ではお店などのBGMとしてジャズを流すところが多くなって、ジャズっぽいサウンドというのはみんなすぐに聞き分けれるようになったのでしょうが、実際にジャズの演奏をライブで観る機会はそこまで多くないと思います。
立見が基本のロックのライブと違ってテーブルに座って呑み食いしながら聴くのが主流となっているジャズですが、事前に少しポイントを押さえておくとより楽しめるはずです。
ライブ演奏の提供のされ方の違いは音楽の楽しみ方が少し違うからかもしれません。立ち見のロック、座席にがっつり座るクラシック、そしてテーブルで飲み食いのジャズですが、ロックコンサートはバンドと観客同士の一体感が大事なので立ち見が適しているのだと考えられます。一方、決められた座席に着くクラシックは100%音楽を聴くことに集中するデザインになっています。そこには楽曲と自分という1対1の関係があって、周りの雑音は聴きたくありません。ラーメンで言うところの一蘭さんの「味集中カウンター」みたいなイメージでしょうか。
ではテーブルで飲み食いのジャズはどうでしょうか。テーブルには近しい人が座っていて、お酒と料理で談笑しながら音楽を聴く。もちろん一人で行ってもいいけれど、すると近くに座っている人と話し始めて仲良くなったりしてしまうのもジャズライブの魅力。なので音楽を聴くことの集中度は100%よりは少しリラックスしていて、70~80%くらいかなと思います。
さて実は他でも無い、このCafeTalkさんの企画でJunichiro講師と私の2人でのジャズライブを今週の金曜日に配信いたします。興味を持ってくださった方は是非ご覧になってください。70%の集中度ですので、何か飲み物かつまむものでもご用意いただいてリラックスして聴いていただけたらと思います。
https://cafetalk.com/seminars/promo/collaboration/music-event/cafetalk-concert-series-2021/jazz-concert-newyork/Live/?lang=ja
とはいえ、70%です。BGMで流れているジャズに対する集中度は普通おそらく10%くらいでは無いでしょうか。それと比べると格段に集中して聴かないと飽きてしまいます。
では何を聞いたらいいのでしょうか。まず、ジャズは即興で演奏されるとされていますが、実は通常、形式に沿って演奏されます。まず始めにthemeと呼ばれる、曲のメインのメロディーを演奏するのが決まりです。歌で言うと一番の終わりまで(例:AメロBメロサビまでを一周というイメージ)です。場合によってはその前にイントロが入るケースもあります。メインのメロディーを一周演奏し終わったら基本的にはそのまま楽器のソロに突入しますが、その際もthemeで使った尺(歌の一番を1周するまでの小節数)とハーモニーに沿って即興演奏をします。この1周を1 コーラスと呼びますが、ソリストのその時々の意向により何コーラス分ソロを取るかが変わります。そして通常は始めのソリストのソロが終わったら、そのまま他の楽器奏者が同じようにして曲のコーラスに乗っ取ってソロを取ります。ジャズのライブに行った時、曲の途中でどこともなく一部の観客から拍手が入って驚いた経験があるかと思いますが、ジャズには風習として楽器のソロがひとりひとり終わるたびにそのソリストのために拍手をする習慣があります。そしてソロが一通り終わったらまたthemeのメロディーを一周弾き、その時はコーラスの最後にエンディングとして、少し形を変えたメロディーを弾くかあるいはtagと言って、少し尺を伸ばして弾いて曲の終わりとします。
以上、形式の話をしましたが、他にもジャズを聴く際に意識を向けることはたくさんあります。例えばハーモニー。ジャズでは曲のハーモニーの骨格がコードシンボルという形でミュージシャンの間で共有されていますが、実際にそのコードシンボルをどう解釈して弾くかはその時々の奏者に任されています。ハーモニーは単旋律のメロディーのように一度覚えたら鼻歌で歌えるような性格のものではなくて、頭の中で「感じる」ものというニュアンスがあります。実に面白いことに、ハーモニー(複数の音程を同時に鳴らす組み合わせ)はその種類によってさまざまな感情を人に連想させます。なので、ハーモニーを感じるということは、音を聞いて自分の感情が揺れ動くさまを感じる。あるいは記憶するということになるのだと思います。
感じるという点では、pulse(同じ感覚で繰り返される音)の形で示される"feel"も文字通り「感じる」ものですね。Swing feelやlatin feelまたはfunk grooveなどいろいろと"feel"の種類を表す言葉がありますが、テンポが速い、遅い、揺らいでいる、しっかりしている、跳ねている、カチカチと刻んでいる、流れている、あるいは激しいなど、音楽の様々なpulseが様々な印象を人に与えます。同時に鳴らす音程の組み合わせであるハーモニーが比較的「瞬間」で人に感情を引き起こすのに対して、feelやリズムを感じるには必ず時間という要素が必要になります。
これを読んだ時点では「やっぱりジャズは難しい」という印象が残るかもしれませんが、少し集中して聴くことをこれから続けて行けば実は様々なやり取りがミュージシャンの頭の中、そして共演者の間でも行われていることがわかってきて、より興味深くなってくることでしょう。ジャズは20世紀にアメリカで生まれた、素晴らしいart formだと思います。今回のオンラインコンサートで、みなさまにジャズに興味をもっていただけるきっかけになればこれ幸いです。